Fixedの悦楽」でご紹介させていただいた名古屋在の自転車愛好家Nさんから、初めてプロショップを訪れる方に、とアドバイスを寄せていただきました。
プロショップといえば、気難しそうな店主に横着な常連。初めての方には敷居が高いところです。
でも、仲良くなってしまえば高い技術と豊富なノウハウ、ハードソフト両面においてこれほど心強い所はありません。ただ、大変高価な品物を扱っていることもあり、一定のマナーがあることも事実。
ベテラン、常連も素直に耳を傾けてもらいたいことも数多く含まれる、大変示唆に富む一文です。ぜひ参考にしてください。

○ポジションにこだわりすぎるのは・・・
またポジションにこだわりすぎるのは、自転車の楽しみを奪うことに繋がりかねません。
「今日うまく走れなかったのは、ポジションが悪いからだ」と考えてしまうからです。僕は「たった一つのベストポジションなどありえない」と考えています。僕は冬は自転車に乗らない(一度ブラックアイスで転倒、後頭部を強打したことがあります。ヘルメットを被っていなければ、間違いなく死んだか、死ななかったにしても重大なことになったことは間違いありません)ので、3月がシーズン初めということになります。そのときにはステムがいやに遠く、サドルがいやに高く感じられます。
1か月もすると、何の違和感もなくなりますが6〜7月になると、ステムがいやに近く、サドルがいやに低く感じられるようになるのです。たぶんシーズンが進むに従って、筋力が戻り、乗り方が変わってくるからだと思います。また一日のうちでもベストポジションは変わると思います。乗り始めはステムが遠く感じられても、乗り終わりにはステムが近く感じられるのです。
ちょっと話がずれますが、お尻とサドルの相性ということが、よく言われます。確かに本当に相性の悪いサドルというものは存在します。こういうサドルはショップで跨った時点でなんとなく判ります。しかしショップで跨ったときには何にも感じず、乗り始めて1〜2時間すると、お尻が痛くなるサドルがあります。
これは一つにはサドルのクッションが柔らかすぎるということがあります。クッションが短時間のうちにへたってしまい、サドルベースにお尻が当たってしまうのです。でもこういうクッションの柔らかすぎるサドルをロードレーサーにつけることを、普通、自転車店は勧めません。
乗り始めは何ともないのに、途中からお尻が痛くなるのは、多分あなたのポジションが変わったことが原因だと思います。乗り始めはサドルの上で骨盤が立っていたのに、1〜2時間乗ることで、筋肉が疲労し「骨盤が寝てしまう(前に倒れこんでしまう)」のではないかと僕は考えています。このことに気付くのに、丸々2シーズンかかりました。試したサドルは片手では済まないと思います。試したレーシングパンツも、片手では済みませんでした。使ったお金も・・・(泣)。最近はお尻が痛くなってきたら、「骨盤を立てる」意識を持つようにしています。
脱線ついでに・・・。
ロードレーサーで2〜3時間走ると、耐え難いほど肩がこることがあります。そんな時は、肩を回したり首を回したりするのですが、たいていはうまくいきません。そんなときは「肘を軽く曲げる意識」を持つと楽になることがあります。
たぶん肘を突っ張り過ぎていて、肩に負担がかかり過ぎているのだと思います。これに気が付くのにも、2シーズンくらいかかりました。その間、ハンドルを変えたり、バズキルというハンドルの振動を減衰するという商品をつけたりしました。
このようなことで悩んだことや、少なくはないお金を使ったことを後悔はしていませんが、やはり「原因は自転車の側にあると考えるのでなく、自分の側にある」と考えるべきでした。まあ、それが分かっただけでも良かったと思うようにしています。

○予算の全てを自転車だけにつぎ込んではいけない
あなたが有り余る予算を持って自転車趣味を始めるというのなら、いらんお世話ですが、たいていの方は少ない小遣いを遣り繰りして、自転車趣味を始めるのだと思います。
たとえばあなたが20万円を自転車に使えるとしましょう。その時には20万円全てを自転車だけにつぎ込んではいけません。
6〜7割を自転車の購入にあて、後の3〜4割は自転車に必要な周辺のものを買うためにあてましょう。自転車に乗るためには、ウエア、シューズ、ヘルメット、グローブなどのほか、携帯ポンプ、フロアポンプ、予備チューブ、携帯工具などなど、細々したものが結構あります。ひとつひとつの値段はさほどでもありませんが、一度に揃えるとなると、すぐ3〜5万円ほどもかかってしまいます。
しかしこれらのものは、安全に楽しく自転車に乗るためには、不可欠のものばかりです。またケイデンス付のサイクルコンピューターや、ハートレイトモニター(HRM)も、初心者にこそ必要なものではないかと僕は考えています。自転車のランクを一つ落としてでも、こういう周辺のものを揃えることをお勧めします。
また少し乗れるようになると、イベントなどにも出たくなるかもしれません。このような時の遠征費も決して馬鹿になりません。自転車そのものに有り金を全部はたいてしまうと、何のために自転車を買ったのかが、わからなくなると僕は思います。もちろん先達さんから貰えるものは、ありがたく頂戴すれば良いです。先達さんの箪笥の中には着ていないジャージとか手袋の4〜5枚は、肥やしになっているはずですし、携帯工具も新しいのを見ると欲しくなって買ってしまったりして、工具箱の中にゴロゴロしているはずです。

○結局はエンジンの性能
確かに自転車競技は機材スポーツではありますが、結局はエンジンの性能(あなたの技量)です。その証拠に世界選手権やツール・ド・フランスの公式な記録には、使用機材は一切載りません(のはずです)。それは成績や名誉は全て乗り手のもので、使用した機材のものではないということを、みんなが共有している証拠だと、僕は考えています。