乗鞍挑戦
<承前>
どれくらい登ってきたのだろうか……もう延々5時間ひたすら登り続けている。altitudeは2,700m、今までこんなに登ったことはあるちちゅうど? すでに森林限界を超えている。空気も薄く気力、体力とも限界に近い。究極のヒルクライム、乗鞍イム、いや昼間見る暗い夢、昼暗い夢か…。登りはじめの飛騨高山は標高500mだった。ここまでで既に2,200m、さらに乗鞍岳山頂まで登山で326m、計2,526mの標高差を上り詰めるわけである。
しかし私には胸中深く秘められたさらなる企みがあった。山頂まで自転車を担ぎ上げる。乾坤一擲、身命を賭し3,026mの山頂に自転車野郎の金字塔を打ち立てる。この図南の翼の企みがうまくいくかどうか……。うまくいけば快挙というより暴挙であろうが、はたしてその顛末やいかに……。

9月21日(祝)60km
今日は念願の美ヶ原、霧ヶ峰高原に向かう。というのは学生時代、信州には2回来ていて合計で1か月以上走っていたのだが、ここは未踏の地だったのだ。松本から美ヶ原へは標高差1,300mの登り、しかも登り始めの3〜4kmは、15〜20%の超激坂が壁のように立ちはだかっている。片足クリートなしで、後ろは23Tの漢(男)ギアでどうやって登れというの?それでも気息奄々登り続け、ついに憧憬の地、美ヶ原へ到着。夢にまで見た美ヶ原、い明治通り、どこまでも広がる平原、日本離れした風景である。ここからビーナスラインを霧ヶ峰へ向かう。
ビーナスライン、名称は優雅であるが実際はきついアップダウンの連続。気力も体力も情け容赦なく削り取っていく。
完膚なきまでに打ちのめされ、クリートなしの左脚はもはや限界である。足が攣りかけたのは四国最南端の岬を走った時以来である。意気阻喪する中、あとひと踏ん張り、踏ん張ると海峡。やっとの思いで霧ヶ峰へ。ああこれで登りはもうすべて終わりだ。後は下って諏訪湖温泉に浸かって、輪行して帰るだけだ。そう思うととてもほっとする。その一方、なんだか少し寂しくなる。旅の終わり、それはいつも私を感傷的にする…。