Fixedの悦楽」「扉を開けたら」「イベントに出よう」と、多くの寄稿を寄せて下さる名古屋在のNさんは、大人の固定ギア愛好家ですが、ある老舗ショップにある旧いピストラーダに惚れ込み嫁にもらおうと画策します。が、甲羅を経た大旦那はそう簡単には首を縦に振りません。
そうこうするうちに、話は飛んで富士の樹海かアリババの洞窟か、ミノタウロスの迷宮か、最近の方にはなかなか理解できないであろうオタクの深い深い世界に沈んでいきますが・・・。はてさて、Nさんのもくろみは無事成就するのでありましょうか。
乞ご期待。
m(_ _)m

旧車は遠くにありて思うもの」と分かってはいるものの
さて3年前にできた「オジサンのコーナー」には、前述したように多種多様なパーツ類の他に、モルテニやプジョーのマークのついたウールジャージ、リョービやヒタチのマークの付いたサイクルキャップなどのウエア類、古いニューサイ、メルクスからイノーの時代の写真集、古いカンパのカタログなどの書籍類、さらには自転車のおもちゃまで、とにかく多種多様のものがおいてあります。
天井からはチネリ、デローザ、コルナゴ、バッタリン、ジオス、マージなどのイタリアものから、エベレスト、トーエイ、ケルビムなどの国産の鉄フレームが何十本もぶら下がっています。
ここに来れば「カンパの溝つきクランクじゃなきゃ駄目」とか「カンパの50周年記念のセットじゃなきゃ駄目」などというワガママさえ言わなければ、1980年代以降のロードレーサーなら新品のフレームと新品のパーツで作ることができるはず(たぶん)。1970年代のものもなんとかなるかもしれません。
ただしここに並んでいるものは、大旦那のコレクションでもありますから、必ずしも売り物ではありません。また値段は時価(すなわち大旦那の言い値)ですから、その辺りはご承知おきのほどを・・・。とは言っても、大旦那の言い値は随分と安く、時々オバサンから叱られることもあるらしいです。

「オジサンのコーナー」には、完成車も何台もあります。チェレステに塗られた旧いビアンキ、メルクスカラーに塗られたデローザなどのイタリアンロード、エルス、サンジェ、トーエイのランドナーやスポルティーフ、デイの実用車などなど、ヨダレの出るような自転車が多数置いてあります。
僕もカトーサイクルで分けてもらった1970年代から1980年代のロードレーサーを数台持っています。
この時代のものは縦型変速機でもちろんフリクションのダブルレバーですから、変速の時には少しトルクを抜き、レバーをややオーバーシフトしてから少し戻してやらないとガリガリいう。
また登りの途中でフロントディレイラーを操作するのはかなり勇気のいることでしたから、登りにかかる前にあらかじめインナーに落としたものです。ブレーキも今のものに比べれば遥かに甘い。石をぶつけられるかもしれませんが、デローザ・プロフェッショナルのカンパのブレーキが余りにも甘いのに業を煮やし、アーチをシングル・ピボット時代のデュラにしていたことがあります。
実用に一生懸命乗るのなら現在のものの方が良い。自動車評論家の徳大寺有恒さんには「旧車は遠くにありて思うもの」という名言がありますが、これは自転車にも当てはまるようです。そんな僕ですから、オタク街道を突っ走っていた時ほどは、旧車に対する幻想はありません。

でもオジサンのコーナーに並んでいる旧車は、やっぱり素晴らしく魅力的。
その中でも『ノザワ』の実用車はホント魅力的。コッタードのクランクや全体の雰囲気からは、1960年代のものと思われますが、その佇まいの優美で清楚なこと。大旦那に聞くと『ノザワ』は東京のブランドだったそうです。この自転車を肴に「こんな自転車に乗っている女性がいたら、それだけで惚れてしまうよね。」と、大旦那と2人で盛り上がっています。
えぇ加減自転車に入れあげたオヤジ2人が、アルコール抜きで、これだけ盛り上がれる『ノザワ』の魅力をご想像ください。でも僕がこれを買っても乗ることはない。だって『ノザワ』に乗っている自分の姿を想像するだけで「キモイ」(@浪人生の豚児)。たまに来ては大旦那の目を盗んで『ノザワ』との逢瀬を楽しめばよいのです。 ここまでは「旧車は遠くにありて思うもの」という自戒がしっかり生きていました。
でもその隣にヒッソリと佇んでいた、臙脂とクリーム色に塗り分けられたピストラーダを発見した途端、「旧車は遠くにありて思うもの」という自戒は胡散霧消してしまったのですから、一度執りつかれたオタクの血というものは消しようのないもののようです。
2009/9/22