風を切って息を上げて、心ゆくまで楽しんだら汚れを落として愛車の労をねぎらってあげませんか。
磨き上げられた自転車は、オーナーの愛着が感じられてとても気持ちの良いものです。反対に、いくら高級車に乗っていても薄汚れていたら、この人は自転車が好きではないんだな。と思ってしまいます。
ただ自転車をきれいにするだけじゃぁない。故障、トラブルを防ぎ、安全なサイクリングをするために愛車を長持ちさせるためにメンテナンスは欠かせない。
「メンテの神様」は絶対にえこひいきしません。5万円のクロスバイクだろうが100万円超のロードレーサーだろうが、きちんと手入れをする人だけに味方をしてくれるのです。

<サビとの闘い編>
こそぎ落とし:便利な真鍮ブラシ
スポーツ用自転車で一番錆びやすいところ、実はねじの頭なんですね。ママチャリなんかで、チェンが赤鰯のようになっているのばかり印象に残っているせいか見落としがち。
錆びやすい理由のひとつは、部位によって普通の鉄ねじを使っていること。高価なチタンボルトはともかく、ステンレスにすればいいじゃないか、錆びにくいし硬いし、と思われるかも知れませんがそうはいかん。
ステンレスは硬い分、もろい。限界を超えると簡単にポッキリと逝ってしまいます。したがってシートピンやクランプボルトなど負荷がかかる所は、粘りのある鉄ボルトでなければダメ。ステンレスは高いからケチっているんではありません。交換しちゃダメよ。
と、いきなり脱線しましたが。
こうしたボルト類の赤錆、見てくれは悪いけれども、あまり心配することはありません。錆は表面だけです。「蘇る銀ロウ」コルナゴ編でもご紹介しましたが、真鍮ブラシでこそぎ落とすときれいになります。真鍮ブラシはDIY店で100円ちょっと。毛足の短いのが使いやすい。鉄ブラシもありますが、これは硬すぎて傷だらけになります。×。
2011/10/28

訂正:ステンレスねじについて
上のサビ落としの話で脱線し、ステンレスについて「もろい」としましたが、これについて京都在住のF氏から詳細なご指摘をいただきました。F氏は元レーサー。素材の専門家で車、オートバイ等の関連部品開発や素材研究をされています
ご指摘の要旨は「適正な素材のステンレス鋼は、大変に強く粘りがある。強度がかかる部分に使うには信頼できるメーカーの適正な素材(後述)のステンレス鋼ねじを使うべき」ということ。

ステンレス鋼には大きく分けて3種類、
フェライト系ステンレス
オーステナイト系ステンレス
マルテンサイト系ステンレス。
とあって、主にお目にかかるのは、フェライト系ステンレスとオーステナイト系ステンレス。フェライト系ステンレスはbcc (body center cubic)という結晶構造で、まあ安物。伸びも悪いし、引っ張るとばきんと切る。
JISで言うSUS430なんかがこれで、耐食性は有りますがもろい。Niの量が少ないので安い。

で、いわゆる18-8ステンレスというのがオーステナイト系ステンレス。
この組成がいわゆるfcc(face center cubic)結晶構造を持つようになる。非常に加工硬化性が強く引っ張ると変形したところが強化され強度が上がります。で、そこではもう変形が起こらなくなり、まだ変形してないとこが伸びる。で、均一伸びになり粘っこくすぐくびれて切れずに非常に靭性も強度も出る。
ただし切削加工は難しく、加工したところが堅くなるので、削りしろを小さくすると全然歯が立たないほど。安物のボール盤で恐る恐る穴開けすると、堅くなってドリルが通らない。
オーステナイト系ステンレスはクロモリ鋼より粘りもあり、いい材料でサビがでて取らなくなるということも起こらない。私自身、強度かかるねじは、信頼できるメーカーのオーステナイト系ステンレスに交換する。絶対安心だが高価でもある。
さらんい、もっとCrとNiを増やしていったのがインコネルという高温用材料で熱膨張係数が0に近いのでも知られています。

クロモリを使うのは、コストを下げるため。サビが気にならないとこだから。また粘って取れなくなると困るのでぱきんと折れるクロモリの方がいい場合も有る。
ねじは展造という方法で作られ、どうしても首のところにひずみがたまりますので加工後のなましなども重要で、徐冷するとCrの炭化物がでて手でねじ切れるほどもろくなる。徐冷されるような使い方になる場合、SUS306Lなど最後にLのついたものを使う。これはローカーボンということで、こういったことが起こらない。

ねじ自体は、素材と加工と、(必要なら)後の熱処理が大事でトータルで考えるべきです。
一流メーカーの等級の高いものは絶対お勧め。自転車なら熱かからないので車で起こるようなかじりも起こらない。

大変勉強になりました。改めて御礼申し上げます。
2011/12/24