MASI。数あるイタリアのチクリの中でも知る人ぞ知る老舗です。日本では、なぜか九州は福岡・南米商会が90年代から2000年代半ばまでオーダーを受けていました。発注する数は年間10本前後と決して多くはありませんでしたが、このフレームを何本も見ていると、自転車の奥深さ、面白さを改めて認識させられます。

<ファリエロは日本嫌い?>
欧米では、あれだけ知られているMASIなのに、日本にはあまり入ってこなかった理由のひとつに、先代ファリエーロが日本嫌いだから、という噂がありました。ある人から聞いた話ですが、その原因を作ったのはアマ車連で、東京五輪の前、日本チームの自転車の調達にイタリアに渡り、最初にMASIを訪問。その時の態度があまりに横柄だったので、ファリエーロが腹かいて(方言)追い出したという。そこで、一行はチネリに出向いて発注した、というオチまでつくのですが…。
この話、アルベルトは「そんなことはない」と否定したそうで、多分、アマ車連に恨みを持つ人間が言いふらしたのでありましょう。
ともあれ、MASIは、南米商会が取り扱うまで日本には正式な直輸入ルートがなかったのは事実。アルベルトが南米社長に曰く「日本に出したことはない」と断言したから間違いないでしょう。それでも結構な数のグランクリテリウムやプレステージが各地に生息しています。多分、イギリスあたりを経由して入ったのではないかと。
2000/8/15

イタリア人福岡で驚く
福岡でユニバーシアードが開催された時のことといいますから1995年のこと。イタリアの役員が南米商会を覗いて「おまえの店はMASIを扱っているのか?」とびっくりした様子。なんで? と聞くと「イタリアでは、それなりに成功した大人が乗るブランドだ。誰でも乗れるわけではない。それを日本(とゆーか、多分、こんな地方都市で、と思ったんでしょうね)で見ることができるとは…」と講釈を垂れていったとさ。
ちなみに彼の国ではマージは、デ・ローザやコルナゴよりも1割高く売るのが通り相場だ、と言っておったらしいです。
2000/8/15

MASIの先進性
日本に入る絶対量が少なかったので、古き良き保守的なチクリという印象を持つマニアも多いようですが、実際には大変先進的なところです。tig溶接をイタリアンロードで最初に取り入れたり、オーバーサイズのパイプを最初に使ったのも、マージです。60年代後半に、6kgを割るピストを製作するなど、昔から先進性が特徴だったのです。
先進性を物語るひとつに、パイプの選定があります。ひとつのメーカーや国産(イタリアのことね)にこだわらない。現在、鉄フレームはデダチャイ・ゼロですが、その前はフランスのエクセルでした。おやぢのファリエーロは、イタリア中のチクリがコロンバスを使っていた時にレイノルズばかり使っていたし…。
南米の社長は、アルベルトから直接、当時、いかにエクセルが優れているかの説明を受けたそうです。
万力でつぶすとコロンブスのパイプがパキッと割れるのに対して、エクセルはつぶれはするものの、最後まで割れない。外はヤスリがかからないほど硬いのに、中は削れるほど柔らかい。こうした素材が理想なんだそうな。
2000/8/15

イタリアMASIとアメリカMASI
アメリカにも「MASI」というメーカーがあります。1973年、ファリエロは一番弟子のMario confenteとともにアメリカに渡り、帰国後も残ったMarioに「MASI」の名前を使うことを許したのが始まりです。暖簾分けですね。ファリエーロもかなりの期間(多分1979か1980ごろまで)、アメリカに滞在していたとか。
ただ、現在はまったく別の資本に買い取られていて、何の関係もありません。
商標だとかブランドとかには厳しいお国柄のため、アメリカでは本家は「MASI」を名乗れません。「MILANO SPORT」のブランドで輸出しています。「MASI」が使えないのは徹底していて、2年ほど前にアメリカの雑誌が本家を特集していたのですが、アルベルト本人でさえも「Alberto」とだけ表記。「MASI」の文字はどこにも見えなかったですね。 
2000/8/15

MASIに乗ったプロ
ファリエロのロードレーサーには、フィレンツォ・マーニ、ジャック・アンクティル、ファウスト・コッピらが使用しています。かのトーリオ・カンパニョロも乗っていたとか。
一番有名なのは、エディ・メルクスですね。
アマチュア時代からマージに乗って頭角を表した。新人時代、すでにMASIに乗っていたもので先輩から「おめぇ、新人のくせに生意気な」と言われたとか。 1969〜1972までプジョーのカラリングを施したマージに乗っておりました。
アルミ全盛になる前の話ですが。MASIの工房で、レモン、インデュライン、キャプッチを目撃したという人が。もう少し遡ればイノーも。プロの彼らがチクリに立ち寄る理由はただひとつ…。
2000/8/15