毎年5月の連休を利用して、Dr.Kは2〜3泊程度のツーリングを楽しんでいます。長い付き合いの朝練仲間も同伴することが多くたいていは珍道中になるのですが。これまで、仲間内で話を聞いて楽しんでいましたが、それだけではもったいないのでここでご紹介することを快諾していただきました。ただ、ほとんどは写真班がおりません。文字だけになることも多いですが、ナニ、その分はじけ飛ぶ親父ギャグの嵐をお楽しみ下さいまし。50代後半以上の親父でないと分からないものがあるのでできるだけ注釈を付けていますが、あんまりベタなものはさすがに放置プレイをしております。m(_ _)m
ところで、いただいた原稿を打ち込んだ後しばらくはATOKが変な変換して困るんだわ。
まぁそれは読んでいただくとよっくわかると思います。

5月3日(博多〜名古屋経由:下諏訪〜杖突峠〜高遠 約40km)
新幹線、中央本線と乗り継ぎ下諏訪駅に降り立つ。この地へ来るのは2度目である。18歳の夏、私にとって初めての自転車ツアーで来ていたのだ。37年間の星霜を経てなお諏訪湖湖面の輝きは変わることなく、優しく私を迎えてくれた。
 今回のツアーのメンバーは4人。名にし負う「遠くへ行きたい」四天王である。傍からは変なおじさん4人組がいったい何してんのう? と思われるのだろうが…。ミッキーさんは相も変わらずのサンダル履き風体、今ツアー中に49歳の誕生日を迎える。イノウエちゃんはメンバー中最年少の43歳である。眉目秀麗の彼には最ヤング賞を贈りたい。ちなみに彼は色々な相談にものってくれる。イノウエ相談である。そしてT橋先生と私、50歳と55歳のオヤジドクターコンビである。
 まずは諏訪大社。下社春宮、下社秋宮、上社本宮、上社前宮の順にお参りする。盟友のT橋先生とは肝胆相照らす仲、二人仲良くお堂の前に座る。これがホントの座った医者である。秋宮にはさざれ石がある。その前に佇み君が代を斉唱する。そんな私は駄洒落医師である。
 この後、杖突峠(1247m)を越え高遠へ向かう。高遠は落ち着いた風情の城下町。あたり一帯暮色蒼然、夜の帳と温泉の湯気に旅情もしっとり潤っていくのであった。

5月4日(高遠〜4峠〜しらびそ峠 約60km)
 さあ今日は4峠越えの山岳コース。カテゴリー1級峠のリフレイン。Z旗を揚げ意気軒昂に出陣だ。まずは中沢峠(1317m)、そして程なく分杭峠(1423m)。この峠はゼロ磁場の地点、パワースポットとして名高い。そう、ここはまさしく中央構造線の真上なのだ。進行方向右手(西側)の伊那山地は西南日本内帯、左手(東側)の南アルプスはフォッサマグナである。欣喜雀躍、心臓フォッサを起こしそうになった。
 分杭峠を下り大鹿村に到着。かねてから是非行きたかった上蔵の集落に寄り道をする。まあ旅も人生も寄り道には格別の楽しみがある。山深いこの集落の歴史は、遥か南北朝時代にまで遡る。かつて南朝、後醍醐天皇の皇子、宗良親王がここに居を構えていた。一説によると彼は少し耳が遠かったらしい。難聴の皇子である。南アルプス赤石岳を背景に歴史と自然とが織りなすノスタルジア。どこか懐かしく心の琴線に触れる日本の原風景…。時のたつのも忘れ、この静謐な情景の中に身も心も溶け込んでいった。非日常との邂逅そして一体化、自転車の旅ならではである。それにしても間近に仰ぎ見る赤石岳、その雄大な山容は筆舌に尽くし難い。蓋し南アルプスの主峰である。
 さあこれから今回のツアーのチマ・コッピ、しらびそ峠(1833m)に向かう。と、その前に実はこの地よりもう一人のメンバーが加わることになっていた。長崎大学サイクリング部の先輩だったアサノさんである。私は一人きびすを返し、アサノ先輩を迎えるため小渋ダム方面へ向かう。ところが待てど暮らせど先輩は現れない。あまつさえ携帯電話も通じない。もうこれ以上は待てんろう、どうすべきか悩んだ。悩んでるタール人である。もうこれ以上遅疑逡巡していられない。日が暮れてしまう。仕方なく一人しらびそ峠へ向かうことにする。標高差約1300m、距離30kmを一意専心登り続ける。
 どれくらい登っただろうか前方遥かに宿泊地のしらびそ山荘が見えてきた。心なしか空気も薄く息も絶え絶えである。そう、ここは2000m近い高地なのだ。あの山荘に着いたらまずボンベを吸わせてもらおう。山荘ボンベである。そんなことを考えているうちにしらびそ峠、しらびそ山荘に到着。この地は一望千里360度の大パノラマである。西には伊那山地と中央アルプス、東には南アルプスが対峙する。残雪を湛えた3000m峰の数々、燦然と輝くその山容にはただただ圧倒された。圧倒驚く為五郎である。
 そういえばアサノ先輩はどうなった? 何のことはない、ひと足先に山荘に着いていたのである。さすが先輩、健脚を商売にしている。久闊を叙しほっとひと息をつくのであった。

5月5日(しらびそ〜下栗の里 約30km)
 今日はいよいよクライマックス、下栗の里へ行くのである。クライマックスとはいえ気分は最高(マックス)に明るい。思い起こせば1年以上前、ふと目にした「引っ越しのサカイ」のテレビCM。これが今回のツアーの出発点だった。そしてここに至るまで紆余曲折の日々があった。どういうルートでここに到達できるのか? メンバーは集まるのか? 連休期間に遠出することについてどう山の神を説得するのか? こんな山岳ルートもし雨天だったらどうしよう。有効な対策も打てん。そして宿はどうする? そう、宿については青の9号さんに汗馬の労をとっていただいた。残念なことに彼はよんどころない事情で参加できなくなった。今日は彼の分までしっかりと見てこよう。艱難辛苦の日々が頭を過ぎる。全てはこの日のためにあった。この情景を見るために遠路はるばるやってきた。いや今日まで生きてきたのである。一気呵成に高度を下げる。そしていよいよ下栗の里ビューポイントへ。
何という情景だろう。何も言葉が出てこない…。ここは日本のチロル、日本のマチュピチュ、いやそんな修辞は何もいらない。瞳を凝らし、この天空の里の情景をしっかりとまぶたに焼き付ける。
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見晴るかす
天空高き
幽谷の
朝陽輝く
下栗の里